2009年10月23日金曜日

隠すことのできないもの

採血の時間です

そう呼ばれたのはまだ20前後の青年

身長の割に体は細身で何かにおびえるように小刻みに震えていた

ナースルームに入ると自分の母親くらいの年齢に見える女性が立っていた
あら
とつぶやくと

ここに腕を置いてくれる?

青年は迷いもなく左腕を台の上に置いた。

注射は久しぶりかしら?
その女性は笑顔で話しかけてきた

だってあなた怯えてるもの
そういうと青白く華奢な腕を台の中央に引っ張った

取り出された太い注射針のついた注射器

もう見慣れたはずだった注射器

静脈の場所も入る瞬間もよくわかる

吸い取られた血液はすぐに解析される
女性はアルコールのついた脱脂綿を腕につけ

こうつぶやいた
よかったねもう少しで自分に勝てる

青年は全てを自白するために来たわけではなかった
ただこれ以上薬物に汚染されてくからだと精神が耐え切れなかった。

誰でも隠しておきたいことはあるだけれども誰でも察してしまうこともある

青年は赤い斑点のある自傷までしてしまった右腕を隠すのをやめた

2009年10月16日金曜日

ある彼女と出会って別れその時間を失った

それ以来
食べるもの囓るもの全てに味がない
描く絵にどれも色がない
見る映画どれにも涙がない

近所に買い出しに行くたび
彼女と連れ添って選んだ果物屋と野菜屋の棚

今やどれでもいい

後ろ姿が立派に見えるほど頼りなかった
その時見せる笑顔が
この世界の俺の唯一の救いだった

無くなって気付いても大切さに気付くだけ

いつか笑って飛ばせる日が来るだろう
一人の人間に夢中になり体の痣や染みのように残された思いで

精神がよりどころを求めているのは確かだった
俺は夜空の下神様に願った

これ以上の出会いは欲しい
これ以上の思いではいらない