2008年10月30日木曜日

影と夢~芳春

出せない手紙を書いています
いつかあなたに出会いました
でも気付かずに過ぎ去ってしまいました
時が経ち私も歌を詠むようになりあなたの存在に気付きました

ようやくあなたの存在の大きさに気付いたのです
消えてしまったあなたの残した哀しさが私を今でもとらえています
すでにあなたの思うような人ではないのかもしれません

元気で過ごしてることを切に願うまでです
それでは


朝木
突然青年は呼び止められる

朝木じゃないか
もうどれくらい経つだろう・・・・

青年は呼び止められた人がいまいち確認できなかった

あぁ同じ文学部だった
ようやく同窓生の渡辺だと気付くと二人は誘われるまま喫茶店に入った
喫煙席で遠慮なくタバコを取り出すと渡辺は

でも驚いたな
こんなところを朝木がうろうろしてたなんて
ここの界隈で見聞を広めるため散歩してるんだ定職に就くのもなんだかふっついてて
それはこっちのセリフだよこんな年にもなっておまえはいいよなどうせ親父さんの財産があってこそなんだろう

あぁお父さんの事
もう死んだよ

え?
安らかな死だった
何も持たず何も与えず

親父の財産なんてとっくに散財してた

驚いたなあんなに親父さんを慕っていたおまえがこんなにも簡単に

残された
お鈴さんと二人三脚でここまでこれたんだ
これからも変わらないよ

そうか 苦労したんだな
おかげで金には困らない物をつかんだ
もしあそこで躊躇してたら手に入らない

なぁいい仕事があるんだけど
タバコを揉み消すと渡辺は話を切り出した
俺は今文芸雑誌の記者をやってるんだ
そこから投稿される俳句や小説、詩歌を選別して掲載してるコーナーがあるんだが

俺に投稿してもらいたいって訳か

そうなんだよ
おまえが文学部の中で選りすぐりの才能を持っていたことを俺は知ってたんだ
最近じゃこのご時世
文学に傾倒する人もめっきり減ってレベルが下がることを危惧してるんだよ

わかったよそう簡単に作れる物じゃないけれど考えとくよ

そうか頼むよ、答えはいつまででもいい
コーヒーはもう飲まないのか?
いやもうあまり依存したくなくて

朝木は考えていた
この長い十年間に自分に開いた穴は予想以上に大きいことを
文壇では才能をふるえた俺でももう十年だ
今更・・・

家に帰る途中庭の玄関で植木を手入れしてる鈴がいた
ただいま帰りました

あら早かったのですね
何か見つかりましたか?

いやぁ特に何も
すぐに食事の支度をしますね

ちょっと待った
これ

そういうと朝木は一輪の赤い花を差し出した
名前も知らないただ畑の脇に咲いてただけだけど

しばらくここに植えておいて欲しい

承知しました

二人が食事をしている最中
ふふと鈴が笑う
何かついてるのでしょうか?
いえ
何にもないふりをして実は何かあったのでしょう
それは・・・
誰かが見れば立派な夫婦にでも見えるのかもしれない
しかし事実上親子の関係
親父が残してくれたかけがえのない関係だ
いつかこの家を売り払い全てが終わったとしても

父さんの残した意志と鈴さんは・・・

なにやら玄関で騒がしい音がした

源藤さん、源藤さんのお宅でしょうか?

はい
玄関に出ると
郵便物です
こんな時間になんだろう速達だった

差出人は銀行から
封を開けると朝木は少し青ざめた

どうされました?
鈴が怪訝に伺うと

朝木は
親戚の会社が倒産した
保証人になってる俺たちは・・・・

まぁ
その場で絶句してしまいそうな額に鈴は震え驚いた
朝木は返す当てもない膨大な借金に
人生の大半を費やす側に一瞬になってしまった
そう感じたとき人生の歯車は動き出していた

2008年10月18日土曜日

深海

私の家族はちょっと複雑
姉妹二人の四人家族だけれど

ある日おねぇちゃんが彼氏とデートの最中
交通事故で光を失った

以来家族の空気は違和感がある

誰かを支えなくてはいけない事実
うちの家庭にはもの凄く重くのしかかっていた

おねぇちゃんの彼は目が見えなくなってしまったことに責任を感じ
プロポーズをしに結婚指輪を持って家にやってきた

光を失うずっと前はおねぇちゃんは輝いてた
性格も今よりずっとポジティブで一途でしかも情熱があった

プロポーズの言葉をずっと待ちわびていたのは家族ならぬお父さんだった
我が家にはほど遠いほどの両家の縁談だったから

春子さん
これ

おねぇちゃんは手探りで指輪を受け取るとまさぐるように自分の胸にしまい込んだ

おねぇちゃんは事故の手術以来誰とも口をきかなかった
身振り手振りで自分のやりたいことあげたいことをアピールする

指輪をはめなかったのはもう結婚に価値を見いだせなかったから
彼もおねぇちゃんに対する情熱は冷え切っていたのを誰よりも悟られていたから


プロポーズは失敗残されているのはこれからどうしたらいいのかわからない未来

私は学校が終わって一人考え事をしていた
バラバラになってしまった家族をこれからどう取り戻そう

いつも通り家に帰ると

お父さんとお母さんが仕事から帰ってくる

ほら、春子おまえの好きなまんじゅうと果物を買ってきたぞ
みんなと一緒に食べよう

お父さんはいつだって空気を無理矢理こじ開けようとするから余計に家族はぎくしゃくする

おねぇちゃんはいつも目を深く瞑ったまま少しだけ頬を緩ませる

お母さんはおねぇちゃんににてきたのかな
口数が極端に少なくなった

それもそのはず
お母さんがおねぇちゃんに依存していたこと
少なくとも教育熱心だったあの頃が全くのセピア色に変わってしまったこと

おねぇちゃん
あなたが心を開いてくれればこの家族はまたやり直せるよ
私はいつもぽつりと心で思っていた

おいしいか?春子
特別におまえの好みに焼いてもらったこのハンバーグ早く食べなさい


お父さんは家族をどう思ってるのかわからない

おねぇちゃんは家事が大好きだ
昔からおままごとが大好きだったから
得意に自分のことはこなしてゆく

何より気付いていた自分がこの家族からいなくなれば依存しているお母さんそして自立できてないお父さん
そして未熟な私

家族全員が光を失う

私はおねぇちゃんが元気でしかもよくおしゃべりをしていた時を最近よく思い返す
涙が出てくる

何でおねぇちゃんがよりによってこんな仕打ちにあったのだろう

人より真面目で真摯でしかも誠実な彼女が

そして今の彼氏、衛さんとの出会いがあった

恋をしていたとき
一番輝いていた

衛さんともあれ以来口を閉ざしたまま

今日はバラの花束を差し出しにきたけれど
受け取ると
臭いをかいで花びらを食べようとした

おねぇちゃんは理性や知性を失っているわけではない
みんなが愛想を尽かすのを待っている
だからわざと素っ気ない態度や予期しない行動をする

ただみんなもそれに気付いていた

今日も日暮れ
お父さんがお土産をお母さんが愛情を持って帰ってくる

2008年10月17日金曜日

パーマネントブラック

どうも宅配便です
朝から早々玄関で
身に覚えのない荷物が届く

あけると箱一杯に敷き詰められた薔薇の花
宛先を見ても誰も書かれていない
ただ自分の住所だけ
もちろん差出人の名前などもなかった

これは何かの間違いだろう
しかし開封してしまった以上受け取る以外ほかになかった
花を挿す花瓶もないことにちょっとむなしくなった

会社に出勤途中
定期がもうすぐ切れる寸前に気がついた
早いとこ買っとかなくちゃな

駅に着くと中はたくさんの人間でごった返していた
時間に余裕があったので自販機のコーナーで砂糖が利きすぎたコーヒー牛乳を飲み干していた
途中
足下にくすぐったい感触が残った
何だろうと下を見ると

黄色い帽子と赤い帽子をかぶった幼児が追いかけっこをしていた

きゃははははは、にゃははははは
幼い笑い声が響く
子供たちは夢中なのかこちらの存在はおかまいなしだ

兄弟なのだろうと自然にほほがゆるむと
しばらくその様子を眺めていた
この無邪気且つ甚大なエネルギーが今の自分にかけている

しばらくすると保護者のような人物が現れて
ほら、もう時間よ

と催促をし子供たちを無理矢理連れて行った


その母親の顔
どこかで見たような
いや、待てよどこかで赤ん坊を抱いてたな
しかし顔が妙に前より老け込んでいる
人違いだろう

その母親は自分の顔を見るなり何かに気がついたようで軽く会釈をして消えていった

電車に揺られると
一日の仕事が走馬燈のようによぎる
イメージにはほど遠いが
大体目星がつけられる仕事なんだろう
朝っぱらからどうにもならない考えばかりが浮かぶ

一度思い切り遅刻をして自分のポストがどれくらいの物なのか確かめたくはあった
誰かに簡単に代替される物なのか

本当にこの会社に必要とされているのか
自分の物語は30そこらで終わってしまっている
夢や理想を両手に持ち運ばなかった結果だろう
気づいてからではもう遅かった

薬院 薬院 役員
降りる方が済んでからご乗車ください

最近では幻覚にも似た幻聴にも似た
二重の意味にとってとれる物が増えた
例えば発音も同音だと何か違った外国語に聞こえる

染みもよく見れば何か違った物にも見える

ノイローゼでも入ったのかな?

帰宅途中デパートの総菜売り場でつまみと挽き立てのコーヒーを買った
アルコールは極力控えてるから
カフェインで脳内をコントロールする
こんな真っ白な空間でも欲しいものは欲しい
今は無性に笑顔が欲しかった
むろんそれは金で買った物ではなく
本当の意味での笑顔が・・・・