2011年11月9日水曜日

マネキン

人生も30代の半ば
既に焦燥感が漂っていた

妻とは完全に冷めきって愛人には愛想がつき
母親にも顔が合わせられない

風俗にあしげに通っていたが自己嫌悪と倦怠が自分を襲った

最後に足を踏み入れた場所が

人形屋だった
しかも等身大の

いやいや
ここに来る男性は皆思い出をいつまでも閉じ込めたくてくるものです
最愛の女性を失ったり
目的の女性に似たものを手に入れたり

ただですな、1つだけ共通してるんです
寂しいとか虚しい感情ではない
何かが足りないんです

店長は得意げにお勧めの人形を紹介する
どうです目は少々キツメですがあなたのことをいつまでも見続けるでしょう

そうです
僕はいつまでも自分を見続けてくれる女性が欲しかった
ただ何もしてくれないとなると

そこですな
あなたは仮に人間がそばにいたとしてもそうやって何かをしてくれることを望んでいる
しかしいつかは相手も自分も疲れはててしまう
人形というものは逆にあなたのそばにいることしかできない
扱い次第ではとてつもないものに変化するものなのです

俺は大マイをはたいて家に持ってくることにした

袋から取り出してみる
視線はどこかに行っているが
間違いなく自分の空気を探そうとしているような気がする

だがやり場のない感情がこみ上げてきた
あ~だからどうするんだ
俺は人形を投げ飛ばした

しばらくして食事の時間になった
いつもなら妻と母親が用意してくれるのだが

既に誰もいない
誰もいない食卓で一人の食事は仕事疲れの自分を余計に苦しめる
せっかくだからお前も一緒に食べるか
人形に語りかける

少しだけ赤らんだ顔、凛とした睫毛、透き通るような頬骨
自分の好みだけに
少しだけゆらっときた


ベッドで寝ていると
なぜか不気味な悪寒を感じた
人形は暗闇でただうっすらとこちらを見ている

最初に行き場のない怒りを感じたのは妻でも母親でもない
自分への後ろめたさだ
自分はついに自分の孤独を人形に埋め合わせるようになった
世間体からしてみればそれがどんなに異様なことか

しかしと言うかやはりと言うか
近所でうっすら自分のことを耳にするようになった

ねぇ聞いた
あそこの一人暮らしの男性
実はマネキンと同居してるらしいですよ
そうねぇ最近色々な趣味の人がいるから
でも不気味だわあれだけ仕事も家庭も円満だと思われてた人が

いらぬお世話だとわかっていても
やはりというか俺はますます孤独になっていった
人形を着せ替える時
一瞬美しいと思える時がある
もしお前たちが自由に動けたのなら
好きな服を選べるのにな

そのうち自分の趣味を許すと言うか分かち合える女性が現れることを夢見ていた
人には言えないことが真正面から告白できる大切な人

今向き合ってるのはそういう人達の贈り物に近い
たしかに俺は何かが足りない
しかしそれ以上に何かに疲れはてていた

いつも眺めてくれる人形に今日も抱擁をする

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