2008年10月18日土曜日

深海

私の家族はちょっと複雑
姉妹二人の四人家族だけれど

ある日おねぇちゃんが彼氏とデートの最中
交通事故で光を失った

以来家族の空気は違和感がある

誰かを支えなくてはいけない事実
うちの家庭にはもの凄く重くのしかかっていた

おねぇちゃんの彼は目が見えなくなってしまったことに責任を感じ
プロポーズをしに結婚指輪を持って家にやってきた

光を失うずっと前はおねぇちゃんは輝いてた
性格も今よりずっとポジティブで一途でしかも情熱があった

プロポーズの言葉をずっと待ちわびていたのは家族ならぬお父さんだった
我が家にはほど遠いほどの両家の縁談だったから

春子さん
これ

おねぇちゃんは手探りで指輪を受け取るとまさぐるように自分の胸にしまい込んだ

おねぇちゃんは事故の手術以来誰とも口をきかなかった
身振り手振りで自分のやりたいことあげたいことをアピールする

指輪をはめなかったのはもう結婚に価値を見いだせなかったから
彼もおねぇちゃんに対する情熱は冷え切っていたのを誰よりも悟られていたから


プロポーズは失敗残されているのはこれからどうしたらいいのかわからない未来

私は学校が終わって一人考え事をしていた
バラバラになってしまった家族をこれからどう取り戻そう

いつも通り家に帰ると

お父さんとお母さんが仕事から帰ってくる

ほら、春子おまえの好きなまんじゅうと果物を買ってきたぞ
みんなと一緒に食べよう

お父さんはいつだって空気を無理矢理こじ開けようとするから余計に家族はぎくしゃくする

おねぇちゃんはいつも目を深く瞑ったまま少しだけ頬を緩ませる

お母さんはおねぇちゃんににてきたのかな
口数が極端に少なくなった

それもそのはず
お母さんがおねぇちゃんに依存していたこと
少なくとも教育熱心だったあの頃が全くのセピア色に変わってしまったこと

おねぇちゃん
あなたが心を開いてくれればこの家族はまたやり直せるよ
私はいつもぽつりと心で思っていた

おいしいか?春子
特別におまえの好みに焼いてもらったこのハンバーグ早く食べなさい


お父さんは家族をどう思ってるのかわからない

おねぇちゃんは家事が大好きだ
昔からおままごとが大好きだったから
得意に自分のことはこなしてゆく

何より気付いていた自分がこの家族からいなくなれば依存しているお母さんそして自立できてないお父さん
そして未熟な私

家族全員が光を失う

私はおねぇちゃんが元気でしかもよくおしゃべりをしていた時を最近よく思い返す
涙が出てくる

何でおねぇちゃんがよりによってこんな仕打ちにあったのだろう

人より真面目で真摯でしかも誠実な彼女が

そして今の彼氏、衛さんとの出会いがあった

恋をしていたとき
一番輝いていた

衛さんともあれ以来口を閉ざしたまま

今日はバラの花束を差し出しにきたけれど
受け取ると
臭いをかいで花びらを食べようとした

おねぇちゃんは理性や知性を失っているわけではない
みんなが愛想を尽かすのを待っている
だからわざと素っ気ない態度や予期しない行動をする

ただみんなもそれに気付いていた

今日も日暮れ
お父さんがお土産をお母さんが愛情を持って帰ってくる

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