ある女はカートを押していた
中にはまん丸とした赤ん坊が一人
中で
どんなことがあっても母親の方を向かなかった
ただ一点
前を見つめて
おしゃぶりを半ば強制的につけられた姿は
何かに向かい何かを得るために今は進むしかなかった
赤ん坊は孤独だった
ちょうど買い物の時間になると母親はカートをいつものように忙しく押す
これが欲しいのね
欲しいと今言ったわね
赤ん坊の有無を聞かずに母親は買い物を続けていた
赤ん坊の複雑な感情は時に現象として現れた
頼んでもないような吉報が届いたり
人選に恵まれたり
くじ運にもギャンブル運にも恵まれたり
ただそういうことは彼女にとっておまけに過ぎなかった
生きることそれはこの赤ん坊を守り通すこと
ちょっと
そう言われたのは通りでのこと
ひどい剣幕で因縁を路上でふっかけられた
あなた今こすったでしょ
そんな、わたしは
赤ん坊を大事にしすぎた反動が現れたのはこのころだった
街をすれ違ったり家にいるだけでも何かと他人から責められる毎日
不幸ではない
しかし、彼女の精神が疲弊してきた
ある日
散歩一緒にしていると桃の花が綺麗に咲いてきた
あらきれいね
そう漏らしてしまうと赤ん坊はついおしゃぶりを外し
一生懸命母親にあれが欲しいと訴えた
彼女は優しかったから
赤ん坊の最初の願いを聞いてあげることにした
いつもは絶対に放さない手押し車を彼女はつい離し
一枝をちぎって持ってくることにした
。。。。
いつものように赤ん坊は待っていた
お待たせ
取ってきたよ
誇らしげに見せると既に赤ん坊の姿はなかった
温もりも存在も確かに感じるのにそこにはいなかった
泣き崩れた彼女は
心に誓った
もう二度と自分の心の弱さを許さないと
漆黒の闇
柔らかい布団
丸まった姿勢
これがあればいい
白く塗りつぶされた俺の顔
今は何ものでもない
突然目が覚めた
1DKの寝室兼リビングルーム
突然お腹が鳴る
何もしてはいないけれど腹時計は正確に鳴る
何か食べるものはないかと冷蔵庫をあさる
少しの調味料しかない
こんなとき
誰か一緒に食べてくれる人がいれば
そう感じる
だって友達はいないから
本当に優しくされると涙が出る
心が凍てつく寸前だった
自分の扉を開ける寸前までは
孤独は時に救いようのない絶望を産む
うなだれるしかない
ベッドで布団を覆いかぶさるようにまた被った
何も今は聞きたくない
何も今は見たくない
あるのは悠久の時の流れだった
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