2008年2月18日月曜日

喜望峰

町に出ると沢田は辺りを見渡した
辺りにはまばらに人が点在していた
なぜかこの日はストリートミュージシャンの姿はあまり見ない
シートを張って座り込む
沢田はこの日のためにとっておいた歌を全部披露しようと思った
決して見せかけでもごまかしでもない歌
胸の思いを伝え
自分でも少し恥ずかしいものでもある
あぁ俺はこの日のために音楽をやってきたんだな
短い感慨に浸りながらも沢田は心酔した

演奏が始まって間もない頃一つの異変に気付いた
誰も周りには立ち寄ってくれない
むしろ避けている
沢田はちらりとも見てくれない人の波に疎外感を覚えた
そして誰一人としてみてくれないまま演奏は終わった
沢田は複雑だった
俺の音楽は少しおかしい、少し間違ってる

そう思ったとき静かに拍手の音が聞こえてきた
静かに近づいてきたのは昨日の女性だった
いきなり
あんたもう絶頂やわ
私の中で最高のヒーロやわ

それはどうも
沢田は慰めか弔いにしか聞こえなかった

待ちたまえ
私は某レコード会社の社員なのだが君一度デビューしてみないか?
この子はうちの社員で君をずっと見てたんだ

今日の歌が一番あんたらしかったよ

みんな酷いな見てるなら見てるって
すると大勢の人達にいつの間にか囲まれてるのに気付く
この人達は?
あなたの歌をずっと待ち続けてた人
行こうよ次のステージへ
立ち止まっちゃ駄目

沢田は膝を落とした
ただ自分を必要としている人達に囲まれる事がこんなにも沸き上がるものなのだと
大粒の涙をぽとぽと地面に落とした

おわり

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