2008年7月16日水曜日

波のない海原の前で

場面
寝坊した
急がなきゃ
青年は身支度をすると急いで美術学校へ足を向けた

講義は既に始まっていた
堂々と教室をはいるわけにはいかず申し訳なさそうにこっそりはいる
また君かね
教授は青年を発見するなりため息を漏らした
この際だから言っておこう
好き勝手に自分のやりたい事だけをやることはすごく遠回りだ
君は自分の才能を正しい方向へ導くためにこの学校へ来たのだろう
説教は続いた
青年はこの日はテンションが下がりっぱなしだった
自分の画にはまず深みも教養も開かれた感性も無いただのおたくだと
一部の人間たちに認められて何が楽しいのかと
最後に言われた

当ても無く今日はピリピリした空気で街をさまよった


あの画廊を見るとまたあの小汚い少女
素通りしたかったがまるでくいるように自分を見てる

なんだ
またいたのか
こんな所に座り込んでちゃ
物乞いかホームレスと勘違いされるよ

まるで耳にはいってないようす
焦点はいくぶかさだまってるように見える

青年はちょっと気を許して

それよりさ
俺の絵見てくれる?
こんな俺でも今度の作品は自信があるんだ


にゃん
と静かにはねのけられた

なんだよ
少しくらい真面目に見てくれたっていいだろ

まるで申し訳のないすました顔

理不尽な態度に青年は立腹し

今度立ち止まっても絶対に無視しよう
そう心に決めた


日常というのは常になんかの理不尽な事の連続でもある
ほんのささいな事でも悩みに昇華される

描きたい事
ルームメイトの心をいろんな側面を考慮して
何度も下書きを繰り返した

上手に描きたい
目標とする画家がいるからこそ
デッサンの数は日に日に増えてゆく
認められれば
パトロンのいこうに関係なく自分の好きな絵がかける

もちろん壁画のような無謀な大作を構想することもあった
しかし到底自分には技量がたりない

自分のやってること
したい事
理想

それらが複雑に折り重なりしだいに鉛筆が鈍ってきた

ただ
何となく泪がこぼれる日々
何も手に着かない日々がどれくらい続いたのだろうか?

少年は
画廊に自分のやりたい事をもう一度確認をしにいった

先客は自分一人
感じのやたらのいい眼鏡のおばさんなのかおねぇさんなのか
やたらにアニメ調の声で
どうぞごゆっくり

気が紛れるからやめてくれよと懇願したかったが

とりあえずかざってある絵に注力してみる

さすがにプロの絵だ
この流麗な線とタッチ

繊細な仕上げ

到底自分の画風では真似できないだろう

しかしこのモデルの媚びまくった表情
自分に投げかけてくれるのは安楽しかない

この絵いくらですか?
率直な疑問をぶつけると

その綺麗なおば、おねぇさんは
自分が予想する桁の3桁違う値段を自分に突き付けてきた

おいおい冗談でしょ?
そんなことばも

にこにこして平然なおねぇさんの表情には
絶句にしかなかった

しばらくして
ふぅ〜
大きな溜め息が漏れる

現実
その2文字だった
呆然と入り口の前に進んでゆくと
何か柔らかいぶったいにぶつかった

あの汚い少女だった

なんだ
客ならもっと身なりをなんとかしろよ
ここは個人のプライベートな空間だぞ

自分の理不尽な感情を偶然と出くわした人間に当たってしまった

自然と後悔はなかった

少女は
まるでまた何かに叱られるような表情
また怒られたかなって言う表情
複雑な眼差しで青年を見る

かまう事なく振り返る事なく家路につく
一人つぶやく
現実なんて所詮こんなものなのさ

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