2010年3月1日月曜日

バレンタイン

俺はアルピニスト
逆境が好きだった
一歩一歩踏みしめるようにそれに立ち向かう
時に諦めかけ時に絶望し
登り終わった後生きててよかった
それを思うことが唯一の生きがいだった


カーテンを開けると眩い光と共に絶景が待ち構えていた
フカフカのダブルベッド
隣には名前が思い出せない女

タバコの火を入れると
次の目標が目に浮かぶ
次はどこを征服しようか?
どこが見せ場になるだろうか

女が軽いあくびをしながら目を覚ます
隣には値段相応の添い寝があれば良い

あら、起きるのだけは相変わらず早いわね

なんなら、もう一晩俺のそばで寝るか?

冗談、あんたみたいなマスターベーション野郎はゴメンなの

女は颯爽と部屋から出て行った

街へでよう

雑踏の賑わう広場へポケットに手を入れながら漠然と進む
きょうはイースター祭か

フードを被った女の子が
何かを探すように歩いている

御嬢ちゃん、何かをお探しで?
思わず声をかけてしまった

おじちゃん、大切なものを拾ったんだけどどこに届ければ良いかな?
家の人
家族に見せなさい


少女は突然自分の胸ぐらに飛び込んできた
ハグをして欲しかったのか。。
優しく思わず彼女を受け入れた


次の日
雑誌の取材の打ち合わせで次に登る山の打ち合わせをしていた
これは良い絵が撮れそうだ
ゾクゾクしそうな絶景を舐めるように眺めた

すいません、今カメラマンの連中が途中まで登ってしまって今打ち合わせができません
暫く時間をおいてもらえませんか

俺は
いくら絵になるものでもカメラがこんな風じゃ使えないだろう


場所を教えろ
直接で向く

俺は普段着のまま3合目まで登ろうとした

雲行きが急に変化しだしたのはそれからだった
一気にまわりは薄暗くなり、突然吹雪いてきた

引き返すなら今だぞ
内なる声と
自然に進んでしまう足との葛藤が始まった

10分ぐらいたっただろうか
限界だった

簡易式のテントを張りそこで寒さをしのごうとした

逆境はいつか必ず乗り越えられる

そう信じてここまで来た

しかし、意識が遠のいていくのを感じた
幸せな自分はいない
どこに行ってもいない
乗り越えた後の快楽だけに飢えていた

ふと、胸ポケットに固いものを感じた
まさぐって取り出すと
包にくるまれたチョコレートだった

思わず口にすると
胸が焼けるような甘さと
ほんの少しの優しさに包まれた幸せが襲ってきた

そうか、俺が求めていたもの
これだった
涙が瞳からはちきれんばかりに出た
俺ははじめて恋の味を知った。

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