2010年3月11日木曜日

Window

未来、少し先の未来
俺は当てもなくさまよっていた
安定した職にもつけず、学校も満足に行けず
誇れるものが何一つない状態だった

日雇いのバイトの帰り道
電気店のショーウィンドウ
立体テレビが鎮座して有った
もちろん自分の給料では買えないから
高嶺の花のような存在だった

舞台、スポーツ、音楽
娯楽こそ自分の人生において救いだった

電気店が閉まる時間まで食い入るように眺めた

そのうち奥から視線を感じるようになった
たぶん店員さんだろう

多少の迷惑と感じつつ俺は毎晩通った

そのうちにテレビは画面のサイズがアップし臨場感が増した
まるでその場所にいるかのようにテレビは燦然とした

そして並ぶ台数も増えた
二台、三台
マルチモニターを眺める感覚はとても贅沢だった

番組の内容もよく自分の見るチャンネルになってきた
嗜好が合ったといえば良いのかも知れない

まさか、店員さんのはからいかな
そう感じつつも俺は崖っぷちな人生を堪能していた




転機が現れたのはその後だった

音楽のテレビ番組を見ていて
ハーモニカを弾けるのではないかと予感した
案の定楽譜を見ずともスラスラ演奏できた
公園でいつものように奏でていたら
後ろから声をかけられた
音楽を一緒にやらないかと

その後はトントン拍子だった
バックバンドの演奏から
ワンマンショーまで上り詰め
ある程度の富を得た

もうお金に苦しむことはあまりなくなり
買えないものはなくなったはずだった

偶然夜に久しぶりに電気店の前をすれ違った
テレビは相変わらず燦然と輝いていた
俺は踵を返そうとした

すると中から人が出てきた

こんばんは
最近見ないから少し心配したよ
どうだい、よかったらこのテレビもらってくれないか?

決してお金では買えないものをこの店から貰っていた。
俺はその時ショーウィンドウにうっすら映った悲しげな自分の顔を見た
そうか、俺は無意識にこの顔に自分に虜だったんだな

深々とお辞儀をして俺はその場を立ち去った

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