2010年3月12日金曜日

お互い

港に近い歓楽街から少し離れた住宅街
ひっそりと小さな灯りが灯っている

木で本格的に組まれた屋台
哲夫はここのオーナーだった

ここのラーメン美味しいって思ったことは一度もないよ
でも時に無性に食べたくなって探しにくるんだ

お客は哲夫のことを知ってるようで知らない

無理もない哲夫の店はいつどこで開店するかわからないからだ

血抜きもしないし、余計な添加物は一切使用しない
不器用な自分にしか出せない味だと思ってます

貪るように店内のお客はラーメンを啜る
鉄ちゃん次は明日はどこかで営業するのかな

エェ、多分
すると電話が鳴った

受話器をとると哲夫は
あぁ、お久しぶりです
良いですよ今度行きます

あっさりと電話を切った

屋台はひっそりと営業しているのに行列が出来始めていた
そろそろ切り上げ時だな

哲夫は屋台をたたむ準備をした


次の日

カウンターが50席近くある
都心のラーメン店に哲夫は足を運んだ


こんにちは

すると席にはひとりの若者が一緒に座っていた

やぁ元気にしてたか
体を壊してないか心配していたよ

僕は自己管理のできる男ですから。。

実はね都心の一等地にラーメン店をオープンさせた男がいてきょう一緒に話してたところなんだよ

それで?

暫く修行させて欲しいんだ

頼む

哲夫は頭をさすりながら
お世話になった店長の頼みですから
断るわけには行きませんよ


早速、一緒に見に行ってくれ

お前も頭を下げろ
俺は無理やり頼むことになってしまった



店につくと

へぇ、いい物件じゃないか
駅前でしかも角部屋

いろいろ話しあった結果スープや麺でもめることになった

結果俺は折れた

次の日から早速営業が始まる

そして
鼻をつくような強烈な匂いが街を襲った

なんだろう、無性に食べたい
そういう衝動に狩られたお客がゾクゾクと入ってくる

無理もない、血抜きも下処理も全くされていない独特のスープ
麺も一切添加物は使わない縮れた太い麺
個性は満点だった

誰も美味しいとは一言も言わない
しかし
お客の流れは止まらない

店内は戦場だった

一見シンプルに見えるが彼のスープに対する管理の鋭さは半端じゃなかった
一度でも温度が下がるものなら怒号が飛んだ

麺も秒単位でゆがく時間を管理している

複雑にしてゆけば良いという自分のスタンスと真逆だった


店長はタバコを吸いながら心配していた



どうでしょうねぇ
まだひよっこの美味しいものを作りたい野心家と
社会に必要とされているのに頑なに拒んでいる男

彼らには共通する何かがあるはずなんだ
それを照らし合わせながらお互いに補完しあう

美しいものが出来上がる予感がするよ

それだといいんですがねぇ

だから、お前はテーブルをしっかり管理しとけ
日に日に両者の力関係が明確になってきた
すでにこの店は俺のものではない

しかし、おいしいものを世間に提供する夢はなんとか果たせそうだった

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