2010年3月1日月曜日

素直

仕込みは大体完了し
後は開店準備をするだけだった

シャッターをゆっくり開けると摩天楼のようなビルが聳えてる
見上げながら光を吸い込み
新しい人生の幕開けだった

ちょうど昼休み中の中年風のサラリーマンが通りかかった

へぇこんなところにラーメン屋さんができたんだ
入ってみるかな
すいません、今開いてます?

男は興味津々な顔で店に足を入れた

麺の茹で上げきの沸騰時間の分待たせたけれど
紛れもなく最初のお客さんだ

最初は手が震えた
最初から最後まで自分の責任はなかったから

スープの限界まで試した濃度
麺も具も厳選されたものを選んだ

おまち
丼をゆっくりお客に差し出した

最初のスープを啜って
男は
ふむ
と小さなため息を漏らした


率直な感想だ

暫くすると新聞を広げラーメンを食べることは二の次になった

会計の最中

いやぁ最近刺激的なことがなくてね
こんな場所でまさかラーメンが食べられるとは思わなかったよ
又来る

何気のない一言でも励まされた

あっこんなところにラーメン屋があるよ
誰かの声

やめなよ今月
お金使いすぎたんだし

値段を見ると少し引いてしまう人がいる
多少の値段は張ってもおいしいものを出そうと決めたことだ


すいません、ラーメン一杯
カップルで入ってきたのだが一人前の注文だった

二人は仲良く分け合っている

ラーメン屋は夜がドル箱だった
正直
仕込み、調理、接客

独りでこなすのは大変だ

一日が終わり売上を計算すると
よくもまぁ独りで稼いだなという金額が残った

俺は紙幣を握りしめて
もっとおいしいものが出したいという欲求に駆られた

次の日
流石に二日目で体に疲労が残ってきた

目の前のお客の相手をするだけで精一杯
過労がたたり


三日目に店を休んだ


横になっていると店長から電話が有った
やぁ、店を開いたんだって

人では足りてるかな
最初は自分のペースを掴むのが先決だから困った事が有ったら何でも言いなさい

こういうときに人の温かさが身に染みる

もう一度仕切りなおしだ
そう自分に言い聞かせ
今度は人の輪を考えるようになった

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